運命のヒト
「あなたなの?」
熱い手だった。
力強く、抗えない、どこまでもあたしを連れていきそうな手。
このままさらわれても構わない。途方もなく遠い世界へでも。
そんなありえない感情が、理性とは関係なくあふれるのはどうして――。
唐突に、パッと手が離れた。同時に足が止まった。
「わ」
彼の背中にぶつかりそうになり、あたしもあわてて立ち止まる。
その拍子に、片手で持っていたコートとバッグが落ちた。
彼はそれを拾うと、無言であたしに手渡した。