運命のヒト
「止まろうか?」
運転席から夫が言った。
「ううん、もう書いたから平気」
わたしはパタンと手帳を閉じる。
「ごめんね、せっかく久しぶりの旅行中なのに、仕事の電話なんて」
「忙しいのはお互い様だ。それに、まんざら嫌でもないんだろ?」
ミラーごしにニヤリと笑って見透かす夫。さすが、よくわかっていらっしゃる。
わたしは今年で34歳になる。
今の会社に入ったのは、ちょうど10年前の24歳のとき。
大好きな映画に関わる仕事がしたくて、何社も受けてやっと採用された。