§魂呼びの桜§ 【平安編】



右大将は自嘲的に笑って、懐剣を鞘に収めた。



そして帝の方を向きひざまずいた。






誓って、入内されてからはもとより、左大臣邸にお住まいであった頃より、中宮さまとはお会いしたことなど一度としてございません


どうぞ、主上には信じて頂きたく……







そなたの扇を、藤壺が持っていたという






たしかに、月の美しい夜、お会いしたことはございます


しかし、それはお互いの氏素性を知らなかった折


左大臣家の姫君とわかってからは、けっして、いずれは主上の元へ上がられる姫とわかっている方を、どうしてこの腕に抱けましょう


物の怪の言うことなど捨て置かれませ……







そう言う右大将を、帝は鋭い目で見続けていた。



< 100 / 126 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop