§魂呼びの桜§ 【平安編】
右大将は自嘲的に笑って、懐剣を鞘に収めた。
そして帝の方を向きひざまずいた。
誓って、入内されてからはもとより、左大臣邸にお住まいであった頃より、中宮さまとはお会いしたことなど一度としてございません
どうぞ、主上には信じて頂きたく……
そなたの扇を、藤壺が持っていたという
たしかに、月の美しい夜、お会いしたことはございます
しかし、それはお互いの氏素性を知らなかった折
左大臣家の姫君とわかってからは、けっして、いずれは主上の元へ上がられる姫とわかっている方を、どうしてこの腕に抱けましょう
物の怪の言うことなど捨て置かれませ……
そう言う右大将を、帝は鋭い目で見続けていた。