§魂呼びの桜§ 【平安編】
その時弓弦が鳴らされ、それと同時に僧侶の読経が始まった。
うぅ、これは……
物の怪は苦悶の色を浮かべた。
祓われようとしている物の怪に、帝は静かに語りかける。
麗景殿の想いに気付いてやれなかった
それは私の罪であろう
だがそれ以上の罪は、堕ちる心に付け入り、己が意のままにしようとしているそなたにある
右大将と藤壺と、二人の間に何があったかは詮索せぬ
今藤壷に宿る御子は、紛れもなく私の御子
かけがえのない、我が嫡子だ
されど、子をなしていないとは言え、麗景殿への想いが減じたということは決してない
私にとっては、藤壺も、麗景殿も、どちらも大切な妻なのだから
聞くがよい
何人も、我が妻、我が御子に害なすこと能ず
一片の傷でも付けようものなら、勅命を以って、これを排するものなり
現人神(アラヒトガミ)の言霊であった。
それは、その場にいるすべての者の心に深く刻まれたのだった。