§魂呼びの桜§ 【平安編】
物の怪は息も絶え絶えになり、そして右大将もまた、床に伏さんばかりに頭を垂れている。
帝は、言葉だけで、罪あるものを罰したのである。
う、うううう、このようなはずではなかった……
もっと、もっと、楽しめるはずであったのに……
口惜しやぁぁ
そう叫ぶと、物の怪に取り付かれた麗景殿は、最後の力を振り絞るようにばっと眠る藤壺の側まで飛び、そのまま藤壺の体を抱き上げたのだ。
何をする!
帝の怒声が飛んだ。
実を申せば、われはこの者に憑きたかったのじゃ
なんと心地よい邪心に満ちた女子であろう
しかし、何かが邪魔している
恐ろしく清いものが、この女子を守っておる
じゃから、われは、この者に取り憑いたのじゃ
これはこれで、われにふさわしい器であったからのう
傷つければ、容赦はせぬ
帝のその声に合わせるように、弓弦の音と読経の声がさらに大きくなっていく。