§魂呼びの桜§ 【平安編】
その耳元で、ごーごーと風が唸る。
ふじつぼ……
帝はそんな中でも穏やかに眠る藤壷を強く抱きしめた。
心はどこにあろうともいい
ただ側にいてくれさえすれば、いいのだ……
散々暴れた風が、ある時ぴたりと止んだ。
そして次の瞬間、ぼんやりとした桜色の霧がどこからともなく現れたのだ。
たゆたうように流れてくる桜色の霧。
頬を、髪を、衣を、優しく撫でていく。
先程までのような恐ろしさはなく、その場の者たちはみな神妙な面持ちでこの現象を眺めていた。
藤壷、ご覧
なんと美しい光景だろう
藤壷を膝の上に抱き上げ、帝はそう語りかけた。
目が開いた。
赤く濁った瞳だった。