§魂呼びの桜§ 【平安編】
うだいしょう……さま…………
烏帽子は被っておらず、綺麗に整えられているはずの髪は、ばらばらと地面に散っている
側に駆け寄り身を揺すっても、反応がない。
身罷られてしまったの
そう言って両手で顔を覆った藤壷に、いつの間にか側まで来ていた老女が囁いた。
その者は、本当の恋を知らぬ哀れなおのこ
そして、そなたもまた、本当の愛を知らぬ
藤壷はキッと赤い瞳を老女に向けた。
わたくしが恋しいのは右大将さまだけ
そして、すべてを犠牲にして、その者と堕ちてゆくのかえ
腹のやや子も道連れにして……
やや子……?
藤壷は下腹に手を当てた。
そこにおるじゃろう
そなたの血を分けた可愛いややが
やや……わたくしの、やや…………
いいえ、でもこの子は憎いとしか思えぬあの方の御子
わたくしの子ではありませぬ