§魂呼びの桜§ 【平安編】
藤壷は倒れたままの右大将を見た。
わたくしがほしいのは、この方のややだけ……
つっと、彼女の頬を涙が滑り落ちた。
なぜ、人の生とは、これほどまでに思うようにならないのか
なぜ恋しいと想うだけではいけないのだろう
月夜
左近少将であった彼を美しいと思い、恋に落ちた。
そして彼の側にいたいと願っただけなのに
それがどうしていけないのだろう
人には与えられた役割がある
さめざめと泣く異形のものに、老女は優しい声音で言った。
やくわり
そう、そなたも、そこのおのこも、それを見誤った
では、わたくしのやくわりとはいったい……