§魂呼びの桜§ 【平安編】





藤壷は倒れたままの右大将を見た。




わたくしがほしいのは、この方のややだけ……




つっと、彼女の頬を涙が滑り落ちた。




なぜ、人の生とは、これほどまでに思うようにならないのか


なぜ恋しいと想うだけではいけないのだろう



月夜


左近少将であった彼を美しいと思い、恋に落ちた。


そして彼の側にいたいと願っただけなのに


それがどうしていけないのだろう





人には与えられた役割がある




さめざめと泣く異形のものに、老女は優しい声音で言った。





やくわり





そう、そなたも、そこのおのこも、それを見誤った







では、わたくしのやくわりとはいったい……


< 117 / 126 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop