§魂呼びの桜§ 【平安編】






言われて藤壺はまた下腹に手を当てた。


すると、かすかに動いた、なにか小さなものが。




わたくしの、やや?





そう、そなたのやや


一心に生きようとしている大きな命






わたくしの、やや………………





すると老女はまた、宙にふわりと浮き上がった。




わしはもう行かねばならぬ


輪廻の中に戻るのじゃ






あなたはいったい?




老女の体がぼんやりと桜色の光に包まれる。




あ、もしや…………




さらばじゃ




そして老女の姿が消えると同時に、ビシッと大きな音を立てて桜がまっぷたつに割れたのだ。




ああ、やはり、あの方は桜の精……

桜の魂だったのだ



下腹に手を当てたまま藤壺は右大将を見た。


そして長い間じっと彼を見つめ続けていた。


異形の姿はいつしか元に戻り、赤かった空も青い色を取り戻していった。


それはまるで夜明けのようであった。


< 119 / 126 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop