§魂呼びの桜§ 【平安編】
言われて藤壺はまた下腹に手を当てた。
すると、かすかに動いた、なにか小さなものが。
わたくしの、やや?
そう、そなたのやや
一心に生きようとしている大きな命
わたくしの、やや………………
すると老女はまた、宙にふわりと浮き上がった。
わしはもう行かねばならぬ
輪廻の中に戻るのじゃ
あなたはいったい?
老女の体がぼんやりと桜色の光に包まれる。
あ、もしや…………
さらばじゃ
そして老女の姿が消えると同時に、ビシッと大きな音を立てて桜がまっぷたつに割れたのだ。
ああ、やはり、あの方は桜の精……
桜の魂だったのだ
下腹に手を当てたまま藤壺は右大将を見た。
そして長い間じっと彼を見つめ続けていた。
異形の姿はいつしか元に戻り、赤かった空も青い色を取り戻していった。
それはまるで夜明けのようであった。