§魂呼びの桜§ 【平安編】
樹齢千年を超える桜があった。


丘の頂きにポツンと佇み、枝をいっぱいに広げて、毎春華やかな姿になる。


枝の先まで花を咲かせ、木の下に立って見上げると、空は桜色に染まる。


周りのどの立ち木よりも高く、日の光を一身に浴びて、さながら春の王のようにその丘に君臨するのだ。


千年の重みか。


圧倒的な生命力で、おとなう者を魅了する。


花が終わると名残雪のように、ひらひらと花びらが舞い落ちる。


ひらひらひらひら……


これが一本の木から散る花びらかと思う程に。


夢のような光景を見た人は、それに宿る不思議な力に畏怖の念を抱くだろう。

            
いつの頃からか千年桜は、その辺りの神木として崇められるようになっていった。


この地を長い間見守ってくれたから、そして、これからの千年もまた共にあり続けてほしいと願って。

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