§魂呼びの桜§ 【平安編】
やがて桜は、歌垣の場として若者達が集う場所となる。


『星降る新月の夜、満開の桜の下で想いを交わした二人は、終生共にある。』


いつしかそのような言い伝えが生まれた。


しかし、それはあながち伝説というわけでもない。


たしかに、歌垣の場で結ばれた二人は、その後子宝にも恵まれ、幸せな夫婦となることが多かったのだ。


その言い伝えを頼りに、自分の目当ての相手に恋を囁き、歌を交わす。


そのような場として、満開の桜の下はとてもふさわしく、皆熱に浮かされたように恋の相手を求めた。


千年桜からすれば、些末な行いに見えたかもしれない。


けれど、それが人にとって必要なことなら……。


大切にしてくれる人々のために、僅かだが力を貸してやろう。


そう思ったのだろうか……。


平安の都に移った頃から、桜はぼんやり光を纏うようになる。


その下にいる二人もまた、淡い桜色の光に包まれた。

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