§魂呼びの桜§ 【平安編】

これが、魂呼びの桜ーーー



見上げるほどの千年桜を前に、姫は途方に暮れていた。


市女笠の端をつまみ、ただしげしげと緑に覆われた桜木を見ている。



どうしたらいいのかしら……



わからなかった。




花が咲いていないとだめなのかしら?




傍らに控える女房に問うた。



さあ、わたくしもそこまで詳しくは存じ上げませぬなあ

……ひめさま…………



呼びかけて言いよどむ女房に、姫は不思議そうな表情をして返した。



よもやと思いますが……



なあに?



ひめさまは、どなたかに恋をしておいでなのですか?




その時、桜の葉が風に吹かれてざっと鳴った。


まるで、恋という言葉に反応したようにーーーーー。



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