§魂呼びの桜§ 【平安編】
それは、姫の入内の準備が着々と進められているある日のことだった。


この日、屋敷の寝殿で、月見の宴が開かれることになっていた。


満月がようやく東に顔を出し始めた頃。


網代車が続々車寄せに止まり、殿上人たちが降り立った。


都でも一日を争う権門の貴族の宴。


それに招待されることは誉れである。


若い者から、不惑を過ぎた国政の中心を担うものまで、ここに集うのだ。


寝殿の欄干には束帯の出だし衣が列を成し、常になく華やかな様子になっていた。


宴が始まった。


左大臣は至極機嫌が良かった。


さもあろう。


まさに我が世の春。


その権勢は他を圧倒し、並ぶものはいない。




源氏もかくや



大臣ににじり寄った公達が囁いた。


今宮中で評判の『光源氏』になぞらえられて、大臣は扇で口元を隠しながらも大仰に笑った。










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