§魂呼びの桜§ 【平安編】
紫式部なるものが書きし『源氏』に擬するとは……。

私はあのように美しくもなく、女人にこまめでもない。



そう言った大臣ではあったけど、その表情は満足そうであった。


しばらくして楽が催されることとなった。




それならば、北の方などお呼び……




大臣の一声で、屋敷中の女人たちが寝殿に呼ばれることとなった。


御簾の向こうに、女房たちの衣擦れの音が響く。


広間の殿上人たちは耳をそばだてた。


この中の誰かが、今宵の恋人となるかもしれないから……。


あわよくば文を交わしたいものと、わざわざ御簾の近くに座を移す者もいる。






ひときわ芳しい香の匂いがした。





姫だった。





広間が一層ざわついた。





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