§魂呼びの桜§ 【平安編】
姫の表情は強張っていた。


想い人が、この御簾の向こうにいるから。


日に日に想いは強くなり、会えぬことへのもどかしさばかりが募っていく。


そんな矢先のこの宴だった。


左近少将が来ないはずはない。


できることならこの御簾をすべて取り払ってほしい……。




わたくしと 少将さまを隔てるこの御簾を!




けれどそれは叶わぬこと。


だから姫は、じっと耐えている。


少将の扇を握り締め、気配だけでも、彼の香の香りだけでも感じたいと思いながら……。







美しいと評判の左大臣の姫。


若い公達が皆注目する中、左近少将は一人その場を離れ、恋の手管を知り尽くした女房と共にいた。


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