§魂呼びの桜§ 【平安編】
少将の姿は人垣に紛れて見えない。



彼の存在を知るよすがであった香りも、離れ過ぎてしまったのか感じられない。



姫は一心に意識を凝らして少将の気配を探ろうとするが、ただただ疲れるばかりの行為であった。



なぜ、もう少し近くに来てくれないのだろう。



扇を交換した間柄なのだから……。



遠慮されずとも良いのに。



遠慮?



そうだ。



少将さまは遠慮されているのだ。



左大臣の姫で、あと少しで帝の元へ上がるわたくしに……。



ああ、返す返すも口惜しいのは、この身分、この立場。



わたくしは何もかもを投げ打って、愛する方の胸に飛び込むことすらできないほど、非力だ……。






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