§魂呼びの桜§ 【平安編】
入内してすぐ、藤壺女御は帝に召された。



夜の帳(トバリ)が静かに下りたあと、女御は帝のしとねに侍る。






物腰の柔らかな、気品に満ちたお方……






女房たちの噂で、今上(キンジョウ)がいかに立派な方であるか知っていたつもりであったが、実際間近で玉顔を拝すると、空恐ろしいような心持ちになってくる。






わたくしは本当に、主上(オカミ)の女御になったのだわ






ようやくそのことが現実味を帯びてくる。



けれど、これから行われる儀式については、想像することすら出来ない。



想像しようにも、彼女には知識がなさ過ぎた。



事前に教授されていたとしても、彼女は幼すぎたのだ。






主上の指先が、彼女に触れた。






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