§魂呼びの桜§ 【平安編】
夜の帳が下りた、後宮。
麗景殿に仕える、ある女房の局。
また手の届かないところへ行ってしまわれるのですね
憂いを含んだ声で囁く女房に、身を寄せるのは少将。
何を申す
お前は、妹がまだ右大臣の屋敷にいた頃からの古い仲
おいそれと無下には致さぬ
安心おし
そう言って、少将は女房の滑らかな髪を梳いてやるのだった。
その夜二人は、遅くまで互いを深く求め合った。
その僅かな先。
藤壺では、青海波を美しく舞う少将の面影を胸に眠る中宮がいた。