§魂呼びの桜§ 【平安編】
少しおなかも目立ってきた頃。
今は右大将となっている、前の左近少将が、北の方を娶り屋敷に招いたと言う噂が広まったのだ。
殿上人たちは、右大将殿の夜歩きもこれで終わりかと囁き合った。
その噂は、じきに女房たちによって、女御の元にももたらされた。
うそっ
小さく叫んで、中宮は気を失ってしまった。
女房がおろおろと処置に励んでいる際、渡殿を渡る高い足音が聞こえてきた。
女房たちは、主上が早くもお渡り下さったと色めき立ったが、藤壺に姿を現したのは麗景殿皇后であった。