§魂呼びの桜§ 【平安編】




これは、どうしたというのです



ようやく帝が来た。




中宮さまをお助けくださいませ




女房は帝の袴の裾にすがりつかんばかりに懇願した。



帝の顔は青ざめ、あまりのことに扇で口元を隠している。




麗景殿、これはいったいどうしたというのです




帝の静かな問い掛けに、麗景殿はゆっくりと振り向いた。



ひ、物の怪が




帝の足元にいる一の女房が叫んだ。



藤壺とはまた違った趣の美貌の麗景殿であった。


それが今や、怪しく底光りする目の下には隈ができ、口元は大きく裂け、艶やかだった髪は火で燃えてしまったようにちりぢりになっていたのだ。


誰もが息を呑んだ。




麗景殿、いったい……




悲鳴を上げて逃げ出す女房もある中、しかし主上だけは気丈に物の怪憑きとなった皇后と対峙する。


すさまじい形相の麗景殿。


それがのろのろと這うように近付いてくる。


その恐ろしい姿の向こうで、いまだ藤壺は昏々と眠っていた。


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