§魂呼びの桜§ 【平安編】
すると、物の怪はくすくすと笑い始め、それは次第に哄笑へと変わっていった。
今や、さもおかしそうに高らかに笑う物の怪。
その笑い声を聞いただけで、背筋に冷たいものが走る。
もう、よい……
聞くに耐えず帝がそう言うと、物の怪はぴたりと笑うのを止め、耳まで避けた口をにやりと歪めた。
そして、ゆっくりと手を上げた。
その手には、先程の男扇。
これは、右大将殿のもの
そして、あの女が大事に大事に、ついにはこの後宮にまで持ち込んだ
それが何を意味するか、あなたにはお分かりになろうか
帝の表情が強張る
しかし、所詮は物の怪の言うことだ。
そなたが何を言おうと、信じるはずはなかろう
おとなしく皇后の体より出で、そなたが戻るべきところへ行くがよい
麗景殿の顔は、もう、人のものではなかった。