紅い花に口付けを。
「今宵は、どこの殿様と盃を交わすんだい?」
座敷に向かう途中、聞き慣れた声がわっちを止める。
「笑えない冗談でありんすなぁ。生憎今日は白河藩主がお見えでござんすよ」
白河藩主とは、この辺一帯で一番偉い殿様だ。
「それは驚いた。お忍びでお前に会いに来たか」
歳三(としぞう)と名乗る彼は、最近入った奉公人だ。
入ってすぐに女将さんに気に入られ
奉公人というよりはお客様のような待遇を受けている。
それもそのはず、彼は役者顔負けの美青年だ。