紅い花に口付けを。
薄暗いなかに、ぼんやり光りが漏れる部屋を見つける。

宴会の最中か、歌声や三味線の音色やら、騒がしい。

待っていた禿[見習いの遊女]の日向(ひなた)が、わっちを見ると急いで座礼した。

「入りんす」

日向がそう言って、ゆっくり襖を開けると、浮世離れした派手さが広がっていた。

流石は白河藩主様だ。

大勢部下を引き連れて、着てる着物は一級品。

赤や緑や金や橙。

紫に茶に黄に青、黒。

色彩豊かな料理に見とれていると、白河藩主様の穏やかな声がかかる。

「久しぶりだな、夕霧」

騒がしい室内では、声が聞き取り難いので、少し耳を近付ける。

「久しぶりにございんす」

「随分、綺麗になったなぁ」

白河藩主は、わっちが振り袖新造(一流の花魁になる前の段階)だった頃からの知り合いだ。

その頃は、彼もまだ白河藩主ではなかった。














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