恋の魔法と甘い罠
「話したらきっと楽になると思う。でもここじゃ思いきり語れないだろ?」


「えっ?」



確かに今までのことを話しただけで心の中の重りが少しとれた。


だからすべて話したら楽になれると思う。


だけどどうしてここじゃ話せないの?


意味がわからなくて首を傾げていると、和泉さんの手が、すっ、と伸びてきて親指であたしの瞼に触れた。


そしてその場所をやさしく撫でる。



「すべて流した方がすっきりすると思うから、とりあえず出よう」



そう言って残っていたビールをぐいっと一気に飲み干してから伝票を手にして立ち上がった和泉さん。


その姿を見ながら言われた言葉の意味を考えた。



『すべて流した方がすっきりすると思う』



今のこの状況で流すもの……



「……あ……」



自然と自分の指が目尻に触れると、濡れている感触。


確かにあの日の慎也さんのことを思い出すだけでも涙がこぼれてしまう。


その上、話すとなると……絶対に泣く。


でもこの場所ではわんわん泣けない。


だから『場所を変えよう』と言ってくれたんだ。
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