恋の魔法と甘い罠
「お疲れ様でした」



自然と口から出てきた言葉に、慎也さんは口許を緩ませながらあたしの髪をくしゃくしゃと撫でる。


その瞬間あたしの心臓は、どきんっ、と大きく音をたてた。


普段はあたしの言葉に答えているのか答えていないのかわからないほどに素っ気ない態度をとってくるのに、なぜか今日は表情にも行動にも優しさが溢れていてどうしたらいいのかわからなくなる。


そのまま中に入っていった慎也さんがソファーに腰かけるのを見て、あたしも足を進めてキッチンに立った。



コーヒーを淹れたカップをソファーの前のローテーブルに置くと、慎也さんはそれをじっと見て眉を寄せながら



「何かあった?」



と訊いてきた。


いつもはテーブルに料理が並んでいるのに、今日はコーヒーだけだからかな。


それとも、これから別れ話を切り出そうとしているあたしの表情が緊張でひきつっているのを見て、何かおかしい、と鋭い慎也さんに気づかれてしまったのかな。
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