恋の魔法と甘い罠
どちらにしても、慎也さんがその『何か』に気付いたのなら、今が話すタイミングなのかもしれない、と慎也さんの向かいに腰を下ろして、緊張でどきどきしている胸を押さえながら口を開いた。



「話が……あります」



ぼそぼそと紡ぎだした言葉に、慎也さんは「話?」と言って更に眉を寄せる。



「……はい」



呟くようにそう言ったあと、慎也さんにはわからないように小さく深呼吸をしてからそのまま言葉を続けた。



「慎也さんとは、もう……こんな風には会えないです」


「は?」



明らかに不機嫌になった慎也さんに、ずっと頭の中で考えていた別れの言葉を口にする。



「好きな人ができたから……別れたいです」



そう言ったはいいけれど、慎也さんの真っ直ぐすぎる瞳を見ることができなくて、そのまま俯いた。


やっと言えた一言にほっとしていたけれど、慎也さんはそれに対してなにも言わなくて。


顔を伏せているから、慎也さんが今どんな表情をしているのかもなにを考えているのかもわからないから、胸の中にどんどん不安が広がっていく。
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