恋の魔法と甘い罠
だけどしばらく沈黙が続いたあと、慎也さんが動いたのか、ギィッ、とソファーが軋んだような音が響いてきた。


その音につられるように顔をあげると、ソファーに座っていたはずの慎也さんがいつの間にかあたしのすぐ傍にいて、そのまましゃがんで、ふわっ、とあたしを抱き締めてきた。


一瞬何が起こったのかわからなかったけれど、すぐにこの状況を理解して目の前の胸を押した。


だけど慎也さんの力に敵うわけがなくてそれは無意味に終わる。


まだあたしの心の中には慎也さんがいるし、ほんとは別れたくない、傍にいたい、と思う気持ちもあるからか、こんなことをされたらせっかく決心した心が簡単に崩れてしまう。



「離して、ください」



だからそう言って、今度はさっきよりも強い力で胸をぐいっと押した。
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