恋の魔法と甘い罠
もう一度方向を換えて歩き始めると、



「鮎川?」



後方から声がして“助かった!”と思って慌てて振り返る。


けれどそこにいたのは、



「あ、しん……か、課長」



慎也さん、と言いかけて慌てて言い直す。


誰が見ているかもわからないところで名前を呼んじゃ駄目だよね。


しかもあたしたちはもう終わっているんだから。


こういうことはちゃんとしなければならない。


そう思いながら、慎也さんを見上げる。


ちゃんと別れてからこうやって向き合うのは初めてで、どうしていいのかわからない。


だからか、すぐに視線から逃れるように俯いた。


そんなあたしに慎也さんはやさしく問い掛けてきた。



「こんなところでどうしたんだ?」


「え」
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