恋の魔法と甘い罠
「向こうから、泣きそうな顔をして歩いている鮎川が見えたから」



そう言いながら指差しているのは中庭の向こうに見える廊下で。


ここも向こう側も中庭を見渡せるようにガラス窓になっているから、あたしの姿が見えたんだ。


てことは、あたし……別館の方に来てしまっていたんだ。


慎也さんが見つけてくれなかったらお部屋に戻れなかったかもしれない。



「どうしてこんなところを歩いていたんだ?」


「えっと……迷子? になっちゃって」


「……」



一瞬の間を空けて、慎也さんはぷっと吹き出した。



「相変わらず子供っぽいなぁ」



そう言って笑い続ける慎也さん。


確かに旅館で迷子って子供みたいだけれど、そんなに笑わなくてもいいのに。
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