恋の魔法と甘い罠
あの日の記憶は全くないから、もしかしたら自分で言ったのかもしれないと訊いてみたけれど……



「いや、紗羽から聞いた」


「紗羽さん?」


「ん」



そう言ってまた視線を戻した和泉さん。


そのままジョッキに手を伸ばして、半分くらい残っていたビールを一気に飲み干した。



「強いんですね」



すでに二杯目を空にしたのに、顔色は全く変わらないし酔っている感じでもない和泉さんを見て、無意識にそんな言葉を口にする。



「まあな、学生の頃、毎日のように飲んでいたから強くなった」



そう言った和泉さんに、そういえば……と口を開く。



「紗羽さんと……ですか?」


「は……?」



一瞬、吃驚したように目を見開いた和泉さん。


すぐにその瞳は細められたけれど、動揺したように見えたのはあたしの見間違えだったんだろうか……。


そう思いながら



「紗羽さんと大学が同じだったと聞いたから」


「ああ」



あたしの言葉にそう言って小さく息を吐いた和泉さんは、店員に向かって「生一つ下さい」と言って、また料理に箸を伸ばした。
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