恋の魔法と甘い罠
勢いに任せて失言を繰り返してしまったあとに訪れた沈黙は、とてつもなく長いもので。


だけどほんとはそんなに長くはないんだと思う。


酷いことを言ってしまったという後悔から、居心地が悪くなって長く感じてしまっただけ。


自分が招いてしまった状態だとはいえ、息をするのも苦しくなるようなこの空気の中じゃどうしていいのかわからず、ビールに手を伸ばして口に運ぶしかなくて。


そしたらいつの間にか空になっていたジョッキの中身。


たまたま通りかかった店員に呼び止めてカクテルを注文した。


和泉さんが今どんな気持ちでいるのか気になって、すぐにやって来た赤に近い朱色に染まったグラスを口に運びながら、様子をうかがうように、ちらり、と和泉さんの方を盗み見た……


つもりだった。


だけど実際は、バチッ、と視線が絡んでしまった。


和泉さんもちょうどこっちを向いたのか、それともずっとあたしを見ていたのかはわからないけれど。


その瞬間心臓が、ドキンッ、と大きく跳ねた。
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