恋の魔法と甘い罠
「俺が、紗羽のことを忘れられないっつう噂?」


「はい」


「へぇ」



苦笑混じりにそう言った和泉さんだけれど、自分の知らないところでそんな噂があるなんて、気分のいい話じゃないんだろうな。



「でも、紗羽さんは……」


「ん?」


「紗羽さんに噂のことを訊いたら……大学の頃の話だって言っていました」


「……」



あたしの言葉に黙りこんでしまった和泉さんを見て、また余計なことを言ってしまったと、



「ご、ごめんなさいっ!」



慌てて頭を下げながら謝ったけれど



「いや……ほんとの話だから、別にいいよ」



やさしい笑みを浮かべながらそう言った和泉さんに、気分を損ねてしまったんじゃなくてよかったと、ほっと息を吐いた。
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