2years
50代くらいだろうかと思われる中年男性の隣にはすやすやと眠っている赤ちゃんを抱いた40代半ばくらいの女性がいた。
なぜ、春疾の名まえを知っているのだろうか。
不思議そうな顔をする春疾に彼らは微笑んだ。
それはどこか見たことがある微笑みで優しくてどこか寂しそうな笑みだった。
「何故、俺の名前を知っているんですか?」
「そうか・・・君が。娘――千早から聞いていたんだよ」
娘―――千早から・・・。春疾のことを聞いたのか。
ということは、彼らは千早の親父さんとお袋さんってことか。
じゃあ、あの赤ん坊は―――千早の妹か弟か。顔は良く見えなくて性別不明だ。
だが、それにしてはあまりにも年の差がありすぎる。
いや、ま、現代ではそれくらい年の離れた兄弟がいてもおかしくないか。
「野々宮さん、いや、野々宮君が来たということは夏名ちゃんも来たのかな」
え?あいつも来たのかと驚いた顔をする春疾。
どこだ?と辺りを見回し、降川夫婦に尋ねる。
「あいつ―――夏名も来るんですか!?」
「そうだが――君、知らなかったのか?」
千早の父はさも当然かのように言う。
「いいえ、全然・・・俺は先週メールが来て、それを見てきました―――。夏名とは会っていませんので知りませんでした」
「…そうかい」
苦々しい顔をする夫婦に春疾は目線を下にそらし、顔を俯いた。
千早はどこなのだろうか。
キョロキョロと見渡したがどこにもいない。どこなんだよ・・・本人がいねーと意味ねーだろとちょっとだけイラつき頭を掻いた。
(たくっ、あいつ・・・ま、迎いにいってやるかー)
ご両親なら千早が今どこにいるのか知っているのかもしれないと思い春疾は聞いてみることにした。
「あのー、千早は今どこにいるのでしょうか?」
そう春疾が尋ねたら、夫婦は一瞬目を見開いて重苦しそうな顔をした。
聞いたらまずかったことなのか?それとも聞き方が悪かったのか?
だが、どこもおかしくはなかったはずだ。
「えっと・・・あのー」
と言いかけた時、千早の父が重く口を開いた。
「千早はいないんだ・・・」