2years
春疾は墓の前まで来た。
墓石にはきっちりと『降川家之墓』と掘られていて、墓石の横にある卒塔婆に『降川千早』と記されていた。
本当に死んでしまったんだ、と。
あの千早が…。
千早は可笑しなツッコミどころ満載な不思議な奴で、雲みたいで悪女で悪魔で自分勝手で自己中心的で人の気持ちも知らない最低な奴だった。
その上、自分の事はお構いなし、一切他人にも告げず自分のことは話さず何を考えているのか分からないやつでもあった。
おまけに強い女だった何時も微笑んで弱音なんかはかないそこいらにいるどの女よりも逞しく涙なんて一度も見たこともなかった。
殺しても死なない女とはまさに千早のことだ。
なのに―――どうして、千早なんだ?どうして千早は死んだんだ?
神様というものが存在したとするならそれはとても残酷で不条理なものだ。
春疾の頭には次々と疑問が浮かんできて、2年前のことが走馬灯のように駆け巡った。
そして、今すぐ千早に会って問いただして訊きたいことがあった。
だが、千早はもうこの世にはいなくて。
もしこれが夢ならば、春疾はここにいて何か変われてもう一度千早と話して元に戻せただろう。
だけど、それすらもう叶わない。もう千早は元には戻らない。
文句すら言えない、話すらできない声も聞けない。
死んでからでは遅いということをこの日ほど味わったことがあるであろうか。
いや、この日ほど味わったことはなかった。
「なんでだよ…!!何でだよ…千早答えてくれ…死んでねーよな?冗談だろ、何かの間違えだよな…?殺しても死なないようなお前が…」
本当に最低な女だと墓の前で独り言のように語って呟いていた。
「今更、話そうにも話せねだろ…。お前に謝ってもいねーじゃん俺…。俺にこのまま罪悪感だけ残したままでいろってか…」
結局は自分も自己中心的なのだと思い知らされる。
「まだ…何も解決してねーのに…好きだとも愛してるともお前から聞いたこともねーまま…俺も言えなかったままかよ」
なんで千早だけ1人で遠くに行ってしまったんだろか。