Prisoner of Love ~全ての恋愛が失恋だとしても~
茫洋と広がる紅い光に真実は目を細めた。
遠く乱立する高層ビルに突き刺さって行く夕陽。
窓から見える夕焼けに染まる空は疲れた朱色を滲ませていた。
次の駅への到着が近い事を知らせる無機質な車内アナウンスに
呼び戻されて、真実はもたれ掛かっていたドアから身を離す。

今日の午後は目立ったトラブルもなく、
比較的早い時間帯に退社出来た分、
うんざりするような帰宅ラッシュに巻き込まれる事はなかった。
「いつもこれくらいの時間に帰れると楽なんだけど」
ぼんやりとそんな事を思いながら、
真実は車内を当ても無く一瞥した。

時間帯がいつもと違うと言っても、
人の多寡を別とすれば他に何も変わらない光景。
疲弊しきった顔を浮かべている中年のサラリーマン。
無邪気に同級生とお喋りしている女子高生。
テニスバッグを抱えている大学生。
上司の愚痴を零している若いOL。
ただ、彼等に唯一共通している事が一つだけ在った。
彼等の中で、携帯やスマホを手にしていない者は居なかった。
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