Prisoner of Love ~全ての恋愛が失恋だとしても~
だが、結婚して5年が経った今となっては
あながち、不動産屋の言う事も間違ってはいなかったと言える。
特に、新設の複合商業施設と一体化した駅ビルは
センスの良いテナントが多く入っており、
大抵の用事は其処で済ませる事が出来た。
今夜も真実は其処で二人分の夕食の材料を買い、帰路に向かう。

駅ビルを出た頃には完全に日は暮れていた。
マンションまでの道すがら、食材が詰まった袋を片手に、
真実は冷たい塊をバッグからもう一度取り出した。
受信メールの画面に映し出されている短いメッセージ。
「…………」
読み返すのに5秒とかからない。
それでも暫く画面を見詰めていたが、やがて真実は
沸き起こる寂しさと一緒に携帯をバッグへ押し込んだ。

メールの件名は「ごめんね」。
本文は「システム障害の対応で帰り遅くなりそう」。
送信者は、桐生均(キリュウ ヒトシ)。
――真実の夫だった。
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