マイライフ イズ ダブルス
社会人1年目、大人になる。
2003年春。
リクルートスーツに履きなれないヒールで、講堂に居た。
同じようなナフタレンの香りのする同年代の集団で1列に並ぶ。
白いワイシャツの襟を正したり、スカートのファスナーの位置が背骨と揃うように、直してみる。
肩にフケが乗ってないか、自分で払ってみる。
あぁ、足が蒸れる。
早くこれ脱いで、ストッキングを脱いで、足の指を全開にしてクッパクッパとしたい。
そんなことより、入学式とは違う、お前らどんだけ能力あるのか見せてみろよ、みたいな観衆の中にいることがとてつもなく吐きそうだ。
「新入社員、入場」
軍隊かよ、と内心つぶやきながら不本意にもヒールが音を立てることに苛立ちながら前に続けて歩いていく。
檀上に整列させられて、目線を下にやると品定めの目線が自分に突き刺さり、下は見れない。仕方がないので、少しだけ斜め上の天井の境目を見つめてみた。
「青木健太くん」
50過ぎのおじさんに名前を呼ばれて一番先頭の男が一歩前に出て、兵隊のようにおじぎをする。
「桂木みなとくん」
カツカツとヒールの音をたて、肩まで伸びたストレートを揺らして女がおじぎをする。
「中村花音くん」
ドキリと心臓が音を立てる。ヒールが折れるんじゃないかと思うほどよろめいたけれど体制を立て直し一歩前に出て、一呼吸をおいておじぎをした。
一歩出した歩幅を戻すと鼻から深い息を出した。
自分のあとに何人か名前が呼ばれる。
たった一歩出ておじぎするだけで、自分の評価が決まる気がしていたから終わってからの安堵感はストッキングを脱いでクッパクッパ並みに開放感があった。
「以上、15名。これからの君たちに期待しています。諸先輩方から学び、吸収し、我が社に貢献できる人材となっていってください」
おじさんの上から目線の締めの文言に、私たち15名は軽い会釈をし促されるまま檀上を降りた。
リクルートスーツに履きなれないヒールで、講堂に居た。
同じようなナフタレンの香りのする同年代の集団で1列に並ぶ。
白いワイシャツの襟を正したり、スカートのファスナーの位置が背骨と揃うように、直してみる。
肩にフケが乗ってないか、自分で払ってみる。
あぁ、足が蒸れる。
早くこれ脱いで、ストッキングを脱いで、足の指を全開にしてクッパクッパとしたい。
そんなことより、入学式とは違う、お前らどんだけ能力あるのか見せてみろよ、みたいな観衆の中にいることがとてつもなく吐きそうだ。
「新入社員、入場」
軍隊かよ、と内心つぶやきながら不本意にもヒールが音を立てることに苛立ちながら前に続けて歩いていく。
檀上に整列させられて、目線を下にやると品定めの目線が自分に突き刺さり、下は見れない。仕方がないので、少しだけ斜め上の天井の境目を見つめてみた。
「青木健太くん」
50過ぎのおじさんに名前を呼ばれて一番先頭の男が一歩前に出て、兵隊のようにおじぎをする。
「桂木みなとくん」
カツカツとヒールの音をたて、肩まで伸びたストレートを揺らして女がおじぎをする。
「中村花音くん」
ドキリと心臓が音を立てる。ヒールが折れるんじゃないかと思うほどよろめいたけれど体制を立て直し一歩前に出て、一呼吸をおいておじぎをした。
一歩出した歩幅を戻すと鼻から深い息を出した。
自分のあとに何人か名前が呼ばれる。
たった一歩出ておじぎするだけで、自分の評価が決まる気がしていたから終わってからの安堵感はストッキングを脱いでクッパクッパ並みに開放感があった。
「以上、15名。これからの君たちに期待しています。諸先輩方から学び、吸収し、我が社に貢献できる人材となっていってください」
おじさんの上から目線の締めの文言に、私たち15名は軽い会釈をし促されるまま檀上を降りた。