セックス·フレンド【完結】
「ありがとう。優しいな、美杉は。俺には、やっぱり美杉しかいないのかもしれない」


あたしの偽りの優しさに、隆也はすがりつくようにそう言った。


携帯を持つ手が小刻みに震え、涙が頬を伝った。

あたしの欲しかった言葉は、これだ。


この言葉を聞いたとき、あたしは誓った。


どんな卑怯な手を使おうとも、隆也を取り戻そうと。


美杉しかいないのかもしれないではいけない。


美杉しかいないと言わせてみせる、と。


恋する女の心を支配するのは濃く深い闇だ。漆黒の中に渦巻く醜いジェラシーだ。


それらを隠すために、女は優しく可憐に満ち溢れた嘘の仮面を被る。


男は、いつだってそのことに気づけない。


あたしは、弱り切った隆也の心に、たっぷりの優しさと暖かさを擦り込んで、彼をとらえ始めていた。
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