セックス·フレンド【完結】
「でも、そんな都合のいい状態がいつまでも続くはずもなかった。彼女とは、些細なことでうまくいかなくなってしまった。無意識に比べてたんだろうな。いつでも俺を受け入れ、甘えさせてくれた美杉と、厳しくて心(しん)の強い彼女と。どっちも魅力的だった。だから、選べなかった」



知らなかった。隆也がそう考えていたこと。



「最終的に、彼女は情けない俺に見切りをつけてアパートを出て行ったけど、美杉はそばにいてくれた。嬉しかった」


なら、なぜ…。


どんな隆也でもあたしは好きだ。


情けなくても、ずるくても、隆也が隆也であるだけで良かった。


受け入れてあげられた。


思いが体中から溢れて、あたしを小刻みに震えさせる。



彼を好きだという気持ちが、止まらない。



「入院した時、美杉が駆けつけてくれた時、本当に感謝の気持ちでいっぱいだった。俺はこんなひどいことをしているのに、美杉は尽くしてくれる。だから、美杉の涙を見て、いい加減決めなくちゃいけないって思ったのも本当だ。気持ちは、美杉に決まりかけていた」


なら、どうして?
どうして、あたしではないの?


さっきから、同じ問いかけばかりが浮かぶ。


なのに、声が出ない。


まるで、話し方を忘れてしまったみたいに、唇が細かく震える。


ただ、涙だけがとめどなく溢れて、息が苦しい。
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