セックス·フレンド【完結】
19
幸い…。


左上半身の軽い打撲だけですんだあたしは、翌日には退院できた。


ただ、体より、心に負った傷のほうが大きかった。


食事を取ることも、深く眠ることもできず、あたしは、たびたび激しい呼吸困難に襲われた。


そして、それは、突然やってきた。


眠る前に、仕事中に、ただ道を歩いている時でさえ…。


ふとしたきっかけで、隆也と過ごした時間が蘇り、あたしは、息ができなくなった。


彼を憎んで、恨んで、いつか見返してやると開き直れたなら、どんなに楽だろう。


なのに、あたしは、そうすることができず、だから、苦しんだ。


人の記憶とは、なんと都合のいいように出来ているのだろうか。


こうなってしまってからというもの、思い出すのは、決まって幸せだった時間ばかりなのだから。
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