セックス·フレンド【完結】
美容院から戻ると、あたしは、仕上げに取りかかった。


この日のために、新調したサイズがぴったりのワンピースに袖を通す。


それは淡いピンク色で、見ようによっては白に見えなくもない。


先生には、きっちりとしたアップのまとめ結いをリクエストした。


隆也の一番好きだった髪型。


土気色だった顔に、丹念にファンデーションを叩き、血色を失った頬にチークをのせる。


艶のない唇に、くっきりとリップライナーで輪郭を描き、グロスを重ねたら、健康だった頃のあたしが蘇る。


それから…。


今日のドレスにはちょっぴり似合わないエメラルドのネックレスを装着する。


結局、アクセサリーはこれだけにした。


隆也からのクリスマスプレゼント。


隆也の心の中に、ほんの一瞬でもあたしがいた証。


全てを終えると、あたしは、鏡の中のあたしをじっと見据えた。


王子様のいない舞踏会へ出かけるシンデレラ。


哀れなピエロ。


でも、きっと、あたしも負けてはいない。


あたしだって、同じように隆也に愛された女だもの。


そうでしょう?竹内さん。


鏡の中のあたしが微笑みを返す。
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