0の楽園
タイトル未編集

守能啓太の場合 1-1

「……何してんの?」

 今、俺の目の前に
繰り広げられている景色は、
なんていうか、とても、ひどい……

何処がひどいか聞くまでもなく
通りがかった人はみんな
口をそろえて
”見ていない”ではなく
”自分はそこを通ってない”
という所から否定して
この状況と関わり合いになるのを
全力で拒む事だろう。

 その理由は鼻を突く腐敗臭だとか、
半分潰れてなんかがはみ出して
道路に無差別に飛び散ってる猫だった
モノの残りだとかを
さしているわけではなくて

その”残りモノ”の
半径1メートル以内に
俺と同じ制服を着た、
もちろん同じ高校の、
そして運悪く(?)同じクラスで
幼馴染の日下部 迷夢
(くさかべ めいむ)が
笑顔で体育座りをして
猫にひたすら喋りかけている
という状況に、だ。

 若干視線をずらせば、
”少しずつ暖かくなってきた
花粉症の辛い季節、春…”とかいう

錆ついて、所々穴まで
あいてきた看板が
道路の脇に斜めに
立てかけられている
まぁまぁひどくない景色が見える。

 その景色と”これ”が
どういうふうに線引きされて
何処からが「ひどい」で
何処からが”ひどくない”のかは、
きっと人それぞれだけど
俺にはこの無関心な景色も
とてもひどい、と映ってしまう。

 ただ通り過ぎていく
大勢の人間がいたり、
その状況に対して
俺みたいに相手にする
やつがいたり、
何かするわけでもないのに
少し遠くの目が合うとこがない
距離で陰口をたたく
主婦会議が開かれていたり
朝から御苦労さま。

 そんなこんなで
気分は最悪な感じでも
起きたもんは起きたわけで
見ないふりしても
見つめ続けても
結局は何も変わらないのだと
いつも通り、とりあえず悟る。



< 1 / 4 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop