カレの愛は増すばかり。
「やっぱり出来ません。
正直に言います。私はアナタのことを信用していません。」
「信用してくれなくてもいいんです!
僕を利用して下さい。貴女の助けになるなら、僕はそれだけでいい!
ここを出て、僕の家へ来てくれませんか?ここよりも広いし、貴女もきっと、」
「出来ませんっ!!」
思わず、声を張り上げてしまった。
月瀬さんはそんな私に、瞳を丸くしてたじろいだ。
「ごめんなさい。大きな声を出して。
でも、それだけは…、出来ません。」
「どうしてですか…。」
「この家は、私にとって唯一の拠り所なんです。全然良い家ではないし、寧ろ古くて、ボロくて、狭くて、床だって所々傷んでいます。それでも…、」
それでも、お父さんが確かにここに居た。
お母さんが死んでから、男手一つで私を育ててくれた。
私の身長が延びる度に、お父さんと背比べをしてそれを刻んだ柱。
お父さんがお弁当を作ってくれた時、卵焼きをひっくり返すのに失敗して、フライパンを落として傷ついた床。
幼い頃、父の日に描いたお父さんの似顔絵を貼ってある冷蔵庫。
古くなって色褪せたキャラクターの掛け時計も、昔は毎日一緒に入って遊んだお風呂も、沢山写真を貼って日焼けした壁も、全部全部、お父さんの匂いがする。気配がする。
何とか私が壊れないで居られるのは、お父さんがまだ居るからだ。
そんな風に、思い込めるからだ。
だから、
「ここが私には必要なんです。ここにはまだ、お父さんが居るんです。
置いて行ったら、きっとお父さんが寂しい…っ!」
また、月瀬さんの前で涙が溢れる。
所詮(しょせん)逃げていると言われても構わない。
いつか向き合わなくてはいけない。そんなことは分かってる。
こんな風に世話をしてくれると言ってくれる人が居るだけでも、きっと恵まれている。
例えそれがどんな人でも、頼るべきなのも…。
でも私は、まだそこまで強くなれない。