カレの愛は増すばかり。
2.5
赤茶色に錆び付いた金属の階段を、鈍い音をたてながら下りていく。
本当にボロボロで、いつ崩れてもおかしくないアパートだ。
彼女はこれの、一体どこが良いのだろう。
ああ、そうか。
彼女がこのアパートに拘っているのは、このアパートに染み付いた幼少の頃からの記憶に、未だ柊一の影を見ているからだ。
柊一、柊一、柊一、柊一…
僕が本当に欲しいものは、皆柊一に惹かれていく。
死んでも尚、それは変わらない。
「よぉ、ルイ。」
階段を下り終えた僕の前に、瞳を金色に輝かせた黒猫が長い尾をしなやかに揺らして姿を見せた。
「クロ…、」
「俺の名前はクロじゃねぇっ! クローシュだ!」
「近いじゃないか。人間も良い名をつけるね。」
クスクスとからかうように笑うと、その黒猫、クローシュは不機嫌そうに鼻を鳴らす。
彼とは僕が幼い頃からの腐れ縁みたいなもので、以前は一緒に暮らしていたこともある。
ケットシーのクローシュ。
猫の王だなんて言われているけれど、要は化け猫の様なものだ。
彼にそれを言うと、いつも『全然違う!』と怒るけれど。
「随分と愛らしい姿だね。
その可愛い見た目で、毎日彼女に甘えているんだろう?」
「俺にまで嫉妬するのか。悔しかったらお前もあの子に可愛く甘えてみるといい。」
フフンと、得意気な顔で尻尾を揺らす。
なんて生意気な猫だろう。