カレの愛は増すばかり。

強調するように二度も“ストーカー”と言ったクローシュを、僕は横目で睨み付けた。

その視線にたじろいだのか、クローシュは一歩後退りする。


「そのくらい知ってる。全部知っててやってるんだ。
それでも僕は彼女が欲しい。」

「お前のそれは、本当にあの子が欲しいのか?
俺にはあの子自身じゃなくて、あの子に流れる母親の血を欲しているように見えるんだが。」

「…それも同じことだろう?彼女の中に流れる透(トオル)の血も、彼女自身だ。」

「お前なぁ…。あの子の中に流れるのはその母親の血だけじゃない。あの子の父親である柊一の血も流れてるんだ。」


いつになく真剣な表情で言うクローシュに、僕はその金色の瞳から目をそらした。


分かってる。勿論そんなことは分かってる。

分かってても、僕は彼女を追いかけるしかないんだ。


どちらかと言うと柊一の方に似ているその顔も、しっかりした性格も、全然母親のそれとは違う。


それでも、艶やかで真っ直ぐな黒髪と、白い肌が似ている。

甘く可憐なあの声なんて、まるで透と話しているようだ。


そうやって少しでも透との共通点を見つけては、僕はそれに安心する。

彼女の中には、確かに透の血が流れていると。


「僕は何と言われようと彼女を迎えに行くよ。」

「…あぁ、そう。じゃあもう勝手にしろ。」


クローシュは面倒臭そうに後ろ足で頭をかくと、錆び付いた階段の下に潜り込んで丸くなった。


こうして見ると、まるで普通の猫だ。


「珍しいじゃないか。君がそんな風に一人の人間に拘るなんて。
名を貰って情でも湧いた?」

「……そんなんじゃねぇよ。
ただ、いつも置いていくんだ。金も無ぇくせに、キャットフード買ってきて。」


『俺はカリカリのヤツ食わねぇのに』と、クローシュは文句を言った。
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