カレの愛は増すばかり。
「ちょ、ちょっと待ってください!
私はそんな話聞いていません!!」
「あら、どういうこと?月瀬さん。
転勤でこっちに来ることになったから清岡さんと暮らすって、そう聞いていたけど。」
私の悲痛の訴えに、大家さんは不思議そうに首を傾げると月瀬さんに視線を移す。
それに月瀬さんは一瞬クスッと口角を上げると、すぐに困ったように私を見た。
「まだつまらない意地を張っているのかい?満。
そんな他人行儀な話し方までして、もう充分だろう?」
「な、何言って、」
「確かに僕の姉と君のお父さんは不仲だったけれど、僕達は関係ないだろう?君のお父さんが亡くなった今、僕は君が一人ぼっちなんだと思うと、どうしても放っておけない。
あの一件は確かに僕の姉が悪い。君の気持ちも痛いほど分かる。でも義兄さんも病床に臥せっているんじゃ、君は頼れる人が居ないじゃないか。」
スラスラといかにも訳有りげに話すと、月瀬さんは苦しそうに眉を歪めた。
正直何を言っているのか分からない。
完全に雰囲気だけで押しきろうとしている。
けれど取りあえず何だか複雑な事情が有りそうなことだけは、月瀬さんのクサイ芝居から伝わった。
どうやらそれは、大家さんも同じらしい。
『まぁ…』とその口癖を呟いて、瞳に涙を溜めている。
この人、何で泣いてんの…。
「何だかよく分からないけれど、複雑な事情がお有りなのね?」
「はい…。すみません、お騒がせして。
あの、詳しい事情は、」
「いいのよ。聞かないわ。
他人(ひと)のご家庭のことだもの。色々あるわよね。」
「…感謝します。」
月瀬さんは儚げな美しい微笑を浮かべると、大家さんの左手を取り口づけた。
それに大家さん(推定50代 女性)は、少女のように頬を薔薇色に染める。