カレの愛は増すばかり。
私は吉井さんが渡してくれた車のキーをチャラチャラ揺らしながら、一旦ロッカールームに荷物を取りに行き、関係者用の出入口から外に出た。
今日は11月の初旬にしては、真冬並の冷え込みらしい。
ひんやりとした空気が頬を刺すように撫でて、霞がかった深い藍色の空には薄い雲に半分隠れた月が浮かんでいる。
レンタルDVDショップから少し離れた駐車場に止めてある吉井さんの真っ黒な車を見つけて、私は渡されたキーで鍵を開けると後部座席に乗り込んだ。
吉井さんは独身だけど、いつも何となく助手席は避ける。
それはきっと、吉井さんから少しだけ女の人のニオイがするからだ。
例えば、ヘビースモーカーな割りに、車内にはタバコの匂いがついていなかったり。
その代わりに女性物の香水が薫ったり。
外と同じくらい冷たくなってしまっているシートに背中を預けて、私は巻いていたマフラーに鼻まで顔を埋めた。
私の父は、約1ヶ月前に死んだ。
私がいつも通りここでバイトをしている時に、父は突然仕事先で倒れた。
バイト中だった私はケータイに連絡があったことに気づかなくて、吉井さんと病院に着いた時には父は息を引き取った後だった。
色を変えた葉がはらはらと落ちはじめる10月、私は一人ぼっちになった。
父の葬儀を終えて火葬場の煙突から灰色の煙が上がるのを見つめながら、『こんなことならもっと一緒に居れば良かった』と、ありきたりな後悔をしたのを覚えている。
私には生まれた時から、父以外いなかった。
私の母は私を生んですぐに亡くなったらしく、二人の間に生まれた子供は私一人。
大恋愛の末身内全てと縁を切り、今では珍しい駆け落ちという方法で結ばれた父と母には、自分達以外に頼れる親戚も居ない。
父はそんな中、私一人を残して母に先立たれた。