カレの愛は増すばかり。
「でも、今は違います。」
「…!では今は、」
「私は自分で思うよりも、あなたに懐いているみたいです。」
月瀬さんの言葉を遮ってわざと少し照れたように言うと、彼は一瞬驚いたように動きを止めて、けれど直ぐに口元を綻ばせた。
「だから、私は今日から学校に行きます。」
「はい!…ん?」
「つまり、月瀬さんのこと信用しているんです。この家の留守を頼むということは、私にとってはそういうことなんです。
その代わり、とはいかないかもしれませんが、バイトはまだ休みを取ってあります。」
『だから、帰ったら夕飯のお買い物付き合ってくれませんか?』と、私は月瀬さんを見上げながら首を少し傾けた。
月瀬さんの顔色が、みるみる赤くなっていくのが分かる。
赤くなって青くなって、また赤くなって…
忙しい人だな。
話しながら玄関まで歩いて行くと、月瀬さんも自然とその後を付いてくる。
もう一押しといったところだろうか。
「そうだ。月瀬さんの好きなもの教えてください。まだ聞いたことなかったですよね?
今日の夕飯、月瀬さんの好きなものにしましょう。」
「僕の好きなもの…、ですか?」
「はい。あ、買い出しの時でいいです。一緒に食材選んでくださいね。」
「一緒に…。」
「はい。一緒に、です。なるべく早く帰ってきますね。出かける準備しておいてください。
昼食はお鍋の中に作ってあるので、温めて食べてくださいね。冷蔵庫にサラダも入ってますから。」
「あ、あの、」
「ではっ!行ってきます、月瀬さん!」
「はっ、はい!!」
「……行ってらっしゃいって、言ってくれないんですか?」
「…っ!い、行ってらっしゃい!!」