カレの愛は増すばかり。
少しぎこちなく手を振る月瀬さんに私は思わず吹き出しながらも、ハイカットのスニーカーの爪先をトンと鳴らして振り返った。
「はい。行ってきます。」
私が笑うと、月瀬さんも嬉しそうに瞳を三日月形に細める。
やっぱりこの人チョロいな。
月瀬さんをうまく丸め込んで玄関を出ると、アパートの階段の下で丸まっているクロの背中にも行ってきますを言って私は学校へと急いだ。
三日ぶりに教室に入るなり、背後から聞き慣れた甘ったるく甲高い声が私を呼び止めた。
「おはよ、清岡ぁ。体調良くなったぁ?」
「あぁ、円香(マドカ)か。おはよ。」
「あぁ…、って!ヒドくなぁい?
メールしたのに全然返してくれないしぃ。」
「メール?あー…、ごめん。最近スマホに替えたからイマイチ慣れなくて。」
「おばあちゃんじゃないんだから、メールくらい見れるようになってよぅ。」
ぶぅーっと桃色のぽってりとした唇を尖らせて、円香は不機嫌そうに文句を言った。
彼女は上尾円香(カミオ マドカ)。
私の数少ない友人の一人だ。
明るいアッシュブラウンの髪色や派手なパーマ、学生にしてはバッチリすぎるメイクに着崩した制服は、普通に歩いていても迫力があり目立っている。
が、見た目や話し方ほど性格は派手ではない。
中々話しやすくて、多分一番親しいかもしれない。
私が自分の机の上に鞄を置いて席に着くと、円香も当然のようにその隣の席に体をこちら側へ向けて座った。
そこ、山内くんの席じゃ…。
辺りを見回して山内くんを探すと、少し離れたところから困ったようにこちらを見ている。