カレの愛は増すばかり。

でも、そういえば何だかやけにリアルだった。

夢にしては、見たこと感じたこと、その匂いまでもをはっきりと覚えている。


空気の冷えた匂い。

肌に刺さる雪の冷たさ。

首を絞められる感触と、喉の奥で息がつまる感覚。


最後に見たあの赤は…、



「くぉらぁっ!上尾ぉっ!!
お前昨日の補講サボっただろっ!!」



この頃見る悪夢を思いだし眉を潜めていると、校内で一番厳しいと有名な我がクラスの担任、澤口先生の怒号によって、私の意識は唐突に此方に戻された。

名指しで怒鳴られた当の本人はと言うと、『おー、おはよぉ』なんて友人にするような挨拶を呑気に返している。


恐らく、その態度が更に澤口先生の怒りを買うのだろう。


澤口先生は額にくっきりと青筋を立てると、大股で此方に歩を進め、円香の襟首を捕まえて低く唸るような声で一言こう言った。


「ちょっと来い。」

「………ハイ。」


あぁ…、何故彼女は何時までたっても学習しないのだろう。

お決まりのパターンすぎる。


引きずるようにして教室の入り口まで引っ張られて行く円香を見送りながらそう思っていると、ふともう一度澤口先生が私の方を振り返った。


「そうだ、清岡。
お前も昼休み進路指導室に顔を出せ。話がある。」

「…え。」

「そう不安そうにするな。お前の生活態度に問題はない。
それとコイツの夏期休暇の課題、暇な時でいいから手伝ってやれ。」

「はい。」


円香、まだ夏休みの課題終わってないのか…。


私は円香のアホさ加減に呆れつつも、昼休みのことを思うとどうしても不安が込み上げ、ため息をついた。
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